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山形地方裁判所 昭和47年(モ)219号 判決 1973年3月30日

原告 鈴木治雄

被告 日本電信電話公社

主文

被告は、山形電報電話局における昭和四五年六月二〇、二一、二二、二四、二五日の勤務割記録表およびそ通日誌を本決定確定の日から七日以内に当裁判所に提出せよ。

理由

第一、申立の趣旨および原因

原告は主文同旨の裁判を求め、その原因として、被告は主文掲記の勤務割記録表およびそ通日誌(以上を本件文書という)を所持しているが、同文書はいずれも、被告が昭和四五年九月二五日付で原告に対してなした懲戒処分の理由とするところの同年六月二〇日から二五日にかけての原告の、いわゆる無断欠勤の有無(即ち、原告の年次有給休暇の請求に対し、被告が、労働基準法三九条三項但書に基づき、事業の正常な運営を妨げるとしてこれを拒否したことが適法かどうか)という法律関係に関係を有するものであるから、被告は民訴法三一二条三号により本件文書を提出する義務がある、というのである。

第二、当裁判所の判断

一、本件記録によれば、本件文書を被告(山形電報電話局)が所持していることが認められる。

二、(一) また右記録によれば、原告は被告の管理者に対し、昭和四五年六月二〇日朝には同日より同月二二日までの、同月二三日には同日より同月二五日までの、各年次有給休暇を請求し、これに対し、被告の管理者は、同月二三日を除き、事業の正常な運営を妨げるとして右請求を拒否したが、原告は右各請求通りに被告の勤務を休んだので、被告はこれを無断欠勤と評価し、昭和四五年九月二五日付で原告に対してなした三ヶ月の停職処分の理由の一つとしたこと、および、本件文書のうち勤務割記録表は、原告が年次有給休暇を請求し、被告がこれを事業の正常な運営を妨げるとして拒否した昭和四五年六月二〇、二一、二二、二四、二五日における原告の勤務場所たる山形電報電話局における職員の勤務状態を、同じくそ通日誌は、右月日における同局の電信電報のそ通状態(即ち業務の繁忙の程度)を記載したものであって、いずれも被告公社が業務上作成したものであることが、各認められる。

(二) ところで、民訴法三一二条三号後段にいう挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書とは、右両者間の法的地位を基礎づけるものとして右両者の直接または間接の関与によって作成されたもののみにとどまらず、広く右両者間の法律関係の構成要件事実に関連性を有する記載内容を持つものも含む(但し、専ら所持者の自己使用のために作成された文書を除く)と解するを相当とする。

(三) そこでこれを本件についてみるに、本件文書の記載内容は、右(一)のとおりであって、これによると同文書は、労働者の年次有給休暇の申出に対する使用者の拒否の適否という原被告間の法律関係の判断に極めて密接な関係を有する(労働基準法三九条三項の規定の体裁等よりすれば、使用者たる被告において、右拒否の正当性、即ち、請求された時季に有給休暇を与えることは事業の正常な運営を妨げることとなることを積極的に主張立証することを要する)ものであること明らかであり、また、本件文書は、いずれも、被告の自己使用のために作成されたという性質を有することは否定できないが、他方、勤務割記録表は、政府の全額出資で設立された公法人である被告の職員の毎日毎日の勤務状態を記録して、被告の労務管理の適切さを担保するとともに後日の労務管理の参考に供し、そ通日誌は被告の毎日毎日の電信電報業務の状態を記録して当日の業務内容を明らかにするとともに後日の業務管理の参考に供し、以ていずれも公共の福祉を増進する目的を有する(日本電信電話公社法一条参照)ものであるという性質を有するものと解されるから、本件文書は専ら被告の自己使用の目的で作成された文書であるということはできない。

三、次に本件申立の必要性について考察するに、本件において、前述のように、原告の昭和四五年六月二〇、二一、二二、二四、二五日における無欠勤の有無即ち、原告の年次有給休暇の申出につき被告がそれは事業の正常な運営を妨げるものであるとしてこれを拒否したことの適否が重要な争点の一つとなっており、本件記録によれば本件文書は右争点の判断に極めて密接な関連性を有すると認められるので、結局、本件文書は原告の立証上の必要性を有するものというべきである。

四、また民訴法三一二条三号後段の規定による文書提出義務は、提出すべき文書の範囲を挙証者と所持者との間の法律関係につき作成された文書に限っている点で限定的ではあるが、裁判所の審理に協力すべき公法上のものであり、基本的には証人義務と同一の性格のものと解されるから、その公表が法律の規定によって禁止されている文書、もしくはそれを公表することが国家あるいは公共の利益を害する性質を有する事項を記載した文書(なお、民訴法二七二条参照)についてはその提出義務を免れうると解するのが相当であるが、本件文書は右二(一)のとおりこれに該当しないこと明らかである。

五、よって原告の本件申立は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 伊藤俊光 裁判官 広岡保 中野哲弘)

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